福岡地方裁判所 昭和35年(ヲ)278号 決定 1960年5月04日
申立人 三池炭鉱労働組合
相手方 三井鉱山株式会社
主文
相手方の委任する執行吏は、別紙仮処分決定第二項の出入妨害禁止部分を申立人組合の行う団結による示威もしくは平和的説得をも禁じているものと解釈して、同決定第三項による執行をしてはならない。
理由
第一、異議理由の要旨
一、相手方は、福岡地方裁判所が相手方(申請人)申立人組合(被申請人)間の同庁昭和三五年(ヨ)第一四六号立入禁止等仮処分事件について、昭和三五年三月二八日なした別紙仮処分決定にもとづき、福岡地方裁判所所属執行吏中村市太郎、同吉次善十郎、同半田親にその執行を委任し、右執行吏等は、次のような執行をなした。
(一) 中村、吉次両執行吏は、同年四月一八日午前三時三〇分頃申立人組合員(以下組合員という)および応援者計一〇数人が、相手方の三池鉱業所三川鉱の三井病院通用門附近において、申立人組合のストライキ中に同所から三川鉱へ就労のため入構しようとする者を監視し、説得する目的でピケツテイングを行つているのを現認するや、右ピケツテイングは、前記仮処分決定第二項により許されないものと認定して、直ちに警察官の援助をえて、右ピケ隊員を排除して、三池炭鉱新労働組合員(以下新組合員という)約一五三人を右通用門から三川鉱内へ入構させた。
(二) 吉次、半田両執行吏は、同年四月二〇日午前九時頃、組合員約四〇人が相手方の宮浦鉱正門横通称新門横附近において、前同様の目的のもとにピケツテイングを張つているのを現認するや、右ピケツテイングは、前記仮処分決定第二項により禁ぜられているものと認定して、直ちに警察官の援助を得て、これを排除し、新組合員約二〇〇人を右門から宮浦鉱へ入構させた。
二、申立人組合のピケツテイグは、正当な争議権の行使として許されているにもかかわらず、右執行吏等は、前述のように申立人組合がピケツテイングを行うことをも前記仮処分決定第二項によつて禁ぜられているものと解釈して、前記各執行行為をなしたものであるから、かかる解釈にもとづいてなされた右各執行行為は違法でありこのように違法な執行行為が、引きつづき将来行われることが明らかであるので、本件異議申立におよんだ。
第二、当裁判所の判断
一、申立人組合主張のことき仮処分決定が、なされたことは、当裁判所に顕著な事実であり、右仮処分決定にもとづき、相手方会社が、福岡地方裁判所所属執行吏中村市太郎、吉次善十郎、半田親にその執行委任をなしたこと、中村、吉次両執行吏は、右委任にもとづき、昭和三五年四月一八日に、半田、吉次両執行吏は、同月二〇日に申立人主張の各場所において、警察官の援助のもとに、右仮処分決定の執行として、右各場所でピケツテイングを行つていた申立人組合員等を同所から排除したうえ、相手方会社の指定した職員及び新組合員を、入構させたことは、甲第四号証(執行調書)甲第五号証(執行調書)によつて認めることができる。
二、申立人組合は、前記執行吏等は、申立人組合がピケツテイングを行うことをもつて、ただちに、前記仮処分決定第二項によつて禁じられている実力による妨害行為にあたると認めて、前記各執行をなしたものであるから、違法である、と主張するので判断する。
前記仮処分決定第二項は申立人組合が平和的な説得もしくは団結による示威の方法によつて、就労希望者に心理的な影響を加えながら、しかもなお就労希望者が自由意思によつて出入を為しうる余地を残して、これらの者に働きかけ、その就労を思い止まらせることは、許容されている趣旨であるから、申立人組合の行うピケツテイングであつても右限度内のものは、実力による妨害行為に当らないことは多言を要しない。
従つて執行吏は当該ピケツテイングが前示ピケツテイグの正当性の限界を超えているか否かを判断し、右逸脱が認定された場合に、はじめて右ピケツテイング排除の可能性が生ずる。
ところで、中村、吉次両執行吏の同年四月一八日付作成にかかる執行調書(甲第四号証)には「大牟田市三池鉱業所三川鉱正門及び病院裏門等を看るに、被申請人組合員に於て、ピケを張り、右ピケは、警察上の援助を求むるにあらざれば、之を解くこと不可能と認めたるにより云々」なる旨の記載がなされていること、吉次、半田両執行吏の同月二〇日付作成にかかる執行調書(甲第五号証)には、「大牟田市三池鉱業所宮浦鉱正門附近に臨み、申請人主張の如き妨害行為の有無につき観察したるに、被申請人組合員等において、正門前所地附近にピケを張り、実力をもつて妨害行為をなしあることを認めたるをもつて、云々」なる旨の記載のなされている。
しかして、右各記載は、その趣旨明確を欠くが、右執行吏等は、申立人組合の行つていたピケツテイングが前示ピケツテイングの正当性の限界を超えているか否かを判断するまでに至らず、前記仮処分決定第二項が申立人組合の行う団結による示威もしくは平和的説得をも禁じていると解釈して、前記各執行行為をなしたものと一応解せざるをえないように思われる。
したがつて、申立人組合が団結による示威もしくは平和的説得を行うことは、前叙のとおり許されているのであるから、右執行吏等が、これをも許されないと解釈したことは、前記仮処分決定第二項の解釈を誤つていたものというべきである。
しかして、相手方の指定する職員又は新組合員の就労に際しては、将来においても申立人組合のピケツテイングが行われることが確実に予想されるので、右のごとき誤つた解釈にもとづく執行行為が将来においても繰返えされる可能性が充分に考えられる。
よつて、本件異議の申立は、理由があるので、これを認容することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 中池利男 宇野栄一郎 阿部明男)
(別紙)
東京都中央区日本橋室町二丁目一番地一
申請人 三井鉱山株式会社
右代表取締役 栗木幹
右代理人弁護士 鎌田英次(外六名略)
大牟田市不知火町二丁目七六番地
被申請人 三池炭鉱労働組合
右代表者組合長 宮川睦男
右当事者間の昭和三五年(ヨ)第一四六号立入禁止等仮処分事件について当裁判所は右申請を相当と認め次のとおり決定する
主文
一、被申請人組合は別紙目録記載の物件に立入り、またはその所属組合員もしくはその他の第三者をして右物件に立入らせてはならない。
二、被申請人組合は申請人会社の指定する職員または従業員が第一項記載の物件内に出入し、もしくは右物件内において申請人会社の業務を遂行することを実力をもつて妨害し、またはその所属する組合員もしくはその他の第三者をしてこれを実力をもつて妨害させてはならない。
三、申請人会社の委任する執行吏は第一、二項の命令の趣旨を公示するため、および第一、二項の命令に違反する行為を排除するため適当な措置を講ずることができる。
昭和三五年三月二八日
福岡地方裁判所
裁判長裁判官 中池利男
裁判官 宇野栄一郎
裁判官 阿部明男
(目録省略)